
店名がなぜ「壁の穴」か。
私も多くの方に聞かれました。実はこれはシェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢」に出てくる言葉「ホール・イン・ザ・ウォール(壁の穴)」からとったものです。
恋人同士が「壁の穴」を通してささやき合うというシーンなのですが、原作では二人が結ばれるまでの障害を壁にたとえています。つまり「壁の穴」は、障害を乗り越えて心を通じ合わせるために存在したのです。
このお話の「壁の穴」のように、お客様との交流を大切にしたい。 そんな願いをこめて「壁の穴」と名付けました。しかしこれでは話が固くなるので、私はよく、厨房の壁に偶然開いた穴を指さし「ここに穴があるから」と答えていたものです。(笑)

スパゲッティ専門店「壁の穴」が開店したのは、昭和28年。
その頃の日本では、まだイタリア料理はなじみの薄い時代でした。
そこで私は、スパゲッティが日本人にとって身近なものとなるよう独自の研究をはじめました。お客さまのニーズを聞きながら「納豆」「たらこ」「うに」など、さまざまな日本の食材を使ってスパゲッティを作っていったのです。しかし特に「和風」にこだわったわけではなく、「日本人の味覚に合うスパゲッティ」を追求した結果でした。
こうして誕生したメニューは壁の穴の定番となり、やがて「和風スパゲッティ」として、日本中に広まっていったのです。